九相図
( くそうず )
作品解説
女性の生前の姿に始まり、死体が膨張し、肌が変色し破れ、犬や鳥に食い荒らされて白骨化する過程を描く。目をそむけたくなるような克明な描写は、肉体への執着を除こうという目的にかなう。
作品データ
- 分野
- 絵画
- 員数
- 1巻
- 品質形状
- 紙本著色
- 法量(cm)
- 縦32.0 長495.4
- 時代
- 鎌倉時代
- 年代世紀
- 14世紀
- 所蔵者
- 九州国立博物館
九相図とは?
本作品は、いわゆる九相図の一種である。九相図とは、屍が白骨化する過程を9段階に分けてイメージする「九相観」を主題とする絵画を指す。九相観とは、人体の不浄を強く自覚することで淫欲を滅す修行の一つとされ、中国・六朝時代の鳩摩羅什(350~409)訳の『大智度論』、中国・隋の智顗(538~597)『摩訶止観』(まかしかん)などの教典や経論に説かれている。日本には奈良時代に請来され、平安時代・10世紀末に源信(942~1017)による『往生要集』等の成立により流布した。
『摩訶止観』の九つの相
『摩訶止観』では、九相は①脹相(ちょうそう)、②壊相(えそう)、③血塗相(けちずそう)、④膿爛相(のうらんそう)、⑤青瘀相(しょうおそう)、⑥噉相(たんそう)、⑦散相(さんそう)、⑧骨相(こっそう)、⑨焼相(しょうそう)(焼かれた骨)の9段階がある。さらに『摩訶止観』では、「骨想」は2種に分けられること、「焼想」は重視しないことが説かれている。また生前の様子と死後間もない様子についても記述している。
きゅーはくの九相図
一方、本作品は、女性の生前の様子1図と、死して朽ち果てる9段階の過程9図の、合計10図を描く。右から順に見ていくと、下記のとおりになる。
① 生前相(せいぜんそう)・・・高貴な女性が上畳に座る。
② 新死相(しんしそう)・・・亡くなって間もない女性が、上畳に横たわる。乱れた袿(うちぎ)からは肌が露出している。
③ 脹相(ちょうそう)・・・顔色が黒ずみ、身体が硬直して手足があちこちを向いている。革袋に風を盛ったように膨張している。
④ 壊相(えそう)・・・風に吹かれ日にさらされて皮膚が破れ、身体は裂け変形している。
⑤ 血塗相(けちずそう)・・・皮膚の裂け目から血があふれ所々を斑に染め、地にしみ込んでいる。
⑥ 膿爛相(のうらんそう)・・・膿み爛れ腐った肉が、火を得た蝋のように流れる。
⑦ 青瘀相(しょうおそう)・・・残った皮膚や肉が乾き黒変し、一部は青く一部は傷んで痩せて皮膚がたるんでいる。
⑧ 噉相(たんそう)・・・死体が鳥獣に食い荒らされている。
⑨・⑩ 骨相(こっそう)・・・ひとつには赤黒い一具の骨、ひとつには純白の清浄色でばらばらになった骨が転がっている。
このように、本作品は、「散想」と「焼想」を描かず、代わりに生前の姿である「生前相」と、死後間もない姿である「新死相」を描き、さらに「骨想」を2図描く。この構成は『摩訶止観』の内容とよく一致しており、本作品は『摩訶止観』との関係がより深いものと考えられる。